• 社長ブログのメイン画像
     

「ないものはない」
  いただいた名刺に大きな文字で「ないものはない」と書かれておりました。島根県海士町(あまちょう)の山内道雄町長の名刺です。イヤタカとの取引のある業者さんと「イヤタカ友の会」という会をつくっているのですが、その会合に先立っての講演会で、山内町長に講師をお願いしたのです。

 いま海士町は全国地方自治体の中で、最も注目されている存在です。人口わずか2千数百人、島根半島の沖合60キロに浮かぶ隠岐群島の4つの島の一つです。遠い歴史を遡れば、承久の乱(1221年)で後鳥羽上皇が流された島として名をとどめています。そんな島の町長をどうしてお呼びすることができたのか、お呼びしようと思ったのか、きっかけは人の縁でした。都会から若者がわざわざやってきて移り住んでいる島という知識は私にもあったのですが、詳しく調べてみると、やってきたことがなんともすごいことでした。これは大変なことだと、伝手を頼りに講演をお願いしたわけです。

 まさか遠い秋田の一民間企業の会にお越しくださるのか、半信半疑のお願いだったのですが、結果は「諾」。これには仲介の労を取っていただいた男鹿市の市議Dさん、海士町の存在をいち早く知らせてくれたH先生、お二人のおかげです。それにしても町長が承知してくださった度量、相手の立場や名前だけで判断しない姿勢には感激させられてしまいました。

 さて講演の方ですが、やってこられたことを淡々と話されたのですが、事実としての裏付けのある話は、声高に強調されるよりも何倍も迫力のあるものでした。
 「このままでは財政再建団体へ転落する」そんな危惧の中での町長就任。自らの給与の50%カットを宣言し、徹底した改革の断行の決意に役場の職員も呼応し、給与以外の削減も含めて2億円の経費を切り詰めたというのです。職員が自分たちの不利益にもかかわらずついてきて、その本気度が町民を動かした結果です。並みの指導力ではできないことです。

 さらにすごいところは、削減の結果を梃にそこから攻めに転じたことです。島のおもな産物であった魚介類が、漁師の手元に売値の半分も残らないという実態に注目し、「CASシステム」という冷凍の最新設備を導入したのです。鮮度の劣化を防ぐことで価値の下落を防ぎ、消費地と直接取引できる状態をつくることで中間手数料などを削除するというふたつを実現したのです。もちろん漁師の収入は格段に増えたわけです。このCASの導入が皮切りとなり、地場産業の振興に次々と取り掛かり、さらにその波を教育分野にまで波及させて行ったのですから大したものです。

 講演会には200名近い方々がおいでくださいました。一般参加を募りましたので、行政の方々や市町村の議員の方々、さらには地元の金融機関の方々もおいででした。そんな中に混じり、地元で頑張っている若い起業家のみなさんが多く参加してくれたことが、私には一番の収穫でした。その中に、秋田から海士町に移り住み5年半暮らしていたという青年がおりました。町の公立塾で学んできたというのです。秋田に戻り、これから学んだことを秋田で活かしてゆきたいというのです。

 「仕事をつくりに帰ってこい」と山内町長は島の若者に呼びかけているそうです。そんな姿勢に、島以外から現状に飽き足らない若者が共鳴し、名だたる大企業のキャリアをなげうってまで島に移り住む若者が多くやってくるというのです。  「仕事がないので帰れない」というのがいまの地方の現状です。「ないものはない」もそうですが、ハンディを逆手に取った攻めの姿勢は、ぼやく気持ちを一切断っているのです。

 企業経営の視点にも多くの示唆と勇気を与えてくれた講演でした。

by 北嶋 正 ¦ 18:11, Saturday, Apr 23, 2016 ¦ 固定リンク

  • ページトップへボタン

Powered by CGI RESCUE